『狂王』


WRITTEN BY 左衛門佐





 広間の大時計が時を刻むようになったのは、いつの頃だろうか。

 城壁と街に囲まれて白が建っている。城の持ち主の勢力の現れか、街は巨大で壮麗であった。 今、沈み行く真っ赤な太陽の光を浴び城は橙色に輝いていた。

 外見に劣らず中も美しく、壮大であった。多くある部屋の中に「大時計の間」と称される広間がある。 来客をもてなすための連日連夜の宴は、主にこの広間が使われていた。 全体の造りは他の広間とそう変わらない。特徴を言うならば、この城の主が座る椅子の場所から豪華なテーブルを挟み、 対照的な位置に大時計がある、いや座っているということだ。 つまり、宴のときに主人は、いつも大時計と向かい合いながら食事をすることになる。 招かれた客は不満に思うだろう。だが、主人に不満を訴える者はひとりもいなかった。

 この時間、大時計の間は宴の準備のため騒がしい。料理を運びながら、椅子を用意しながら、 飾り付けをしながら、大勢の給仕達が音をつくり出していた。

 だが、音の創造は昨日までのことであった。給仕達は音を作らない。給仕達すらも存在しなかった。 大時計の間は今日静寂に包まれている。まるで暗く重い空気が招かれて、 居座っているかのようだ。中央にあった大きく豪華なテーブルは定位置を離れ、 壁に掛かっていた燭台は床に落ち、確かテーブルの上にあったはずの純銀製の置物が消えていた。 この広間の象徴たる大時計だけが場所を離れず、何事もなかったかのように振る舞っていた。

 この状況を主はどう思うのだろうか。


 主は暗闇の中に居る。この城で最も豪華な広間の中で椅子に座っていた。 仕えている者たちはこの広間のことを「王の間」、または「謁見の間」と呼んでいる。

 この城の主は王であった。領土も近隣諸国のなかで最も広い。王が自ら勝ち得たものだ。 滅ぼされた祖国を興し、前王とその王妃、いや父と母を討ち取った恨みある隣国を滅ぼした。 そして次々と襲い掛かってくる近隣国をも打ち倒した。なんのために戦っているのか判らない程、 戦争を繰返し結果、巨大な王国を手に入れ、民は王を「英雄」と呼んだ。 だが、王はなぜ己が英雄と呼ばれるのか解らなかった。そのうち他国からの侵略はなくなったが、 代わりに国内各地で反乱が続発した。王は反乱の鎮圧に奔走し、反乱者に対し苛烈な罰を与え、 支援者に徹底的な弾圧を加えた。そして全ての反乱を鎮圧した後、 王は「狂王」と呼ばれ恐れられるようになっていた。王にとっては「英雄」と呼ばれた頃となんら変わることはしていない。 やはり、なぜ「狂王」と呼ばれるのか解らない。 いつしか自らの滅亡を願うようになっていた。

 その願いは今、叶おうとしている。叶えてくれる者は、王子である自分の息子だった。

 座っている王の前に、王子が立っている。普段は城でほとんど見ない活動的な服装をし、 その手には抜き身の剣が握られていた。沈黙を押し破ったのは、やはり王子だった。

「なぜ、逃げない」

 苦々しい口調だった。それを意に介さないように王は口を開いた。

「逃げる?なぜ、逃げねばならぬ」

「逃げねば、あなたを殺さねばならない。わからないのか、あなたは死ぬのだ。」

(死ぬか・・・・。殺す者が言うのだから間違いはなかろう)

 王は思わず口元をほころばせた。その表情が王子を傷つけたのか、片方の眉をつりあげた。 だが王は、それにも動じず言葉を発した。

「儂はこの国の王だ。」

「そうだ。この狂った国を造った王だ。」

(狂った国の王か)

なぜか笑いが込上げてくる。つい声が漏れるように笑った。

(狂言の中の王だな)

「何が可笑しい」

「そなたが何も知らぬからだ。」

「なっ、何!!」

 王の言葉が意外だったのか、王子は動揺した。彼には駆け引きは不向きかもしれない。
そこに新たな声が割り入ってきた。

「惑わされてはなりませぬぞ、殿下!」

 声の主は、いかにも商人風な男で、周りを金で雇ったのか柄の悪い屈強な男達がついていた。 それに応じたのか・・・

「わかっている!!」

 怒鳴りながらも、平静を取り戻そうとしていた。おそらく、この男にそそのかされたのであろう。 でなければ本来、夢の住人である王子が、父殺しなど思い付くわけがない。

 王はこの男の声を聞いた憶えがあった。もはや、どうでもよいことであったが、記憶の
引き出しを開き、記憶を取り出した。

 数日前、王はこの商人と会っていた。商人が側近に金でも掴ませたのか、謁見が行われた。 商人の願いは途方もないものだった。国内の穀物に関する権限を全て任せてほしいと言うのだ。 王には、そうする義理もなかったし、商人にその力量があるとも思えなかった。話自体が馬鹿らしかった。

 滅亡を願う者としては、認めてもよいかとも一瞬考えたが、王は小悪党が嫌いだった。
商人は退出する時に怨みがましい目をしていたが、どういう手を使ったのか王子に取り入ったらしい。

 ようやく合点がいったのか、王はもう一度、商人を見た。商人の目には勝ち誇った光が込められていた。 願いを達成するために彼は叫んだ。

「情けをかけている場合ではありませぬぞ。この男は世に居てはならない存在です。 王子ができぬのでしたら、わたくしが・・・・」

 その言葉を制し、王子が前に出る。

「いや、私がやる。これは私の役目だ。」

 商人は最初からするつもりはなかったのだろう。薄笑いを浮かべながら恭しく頭を下げ、 後ろに引き下がった。王はその時、王子と商人、護衛以外にも多くの人々がこの広間に押し寄せていることに初めて気付いた。 その中には、王の側近や功績厚い将軍もいた。
全員が王子の後ろに固まり、怒り、侮蔑、同情、悲しみ・・・・、様々な表情を浮かべている。 それを見て王は、口を開こうとした。

 そのとき、視界一杯に王子の顔が広がり、胸の中心に稲妻にも似た感覚が走った。

「・・・気をつけるがよい・・・」

 王は力なく言い放つ。

「私はあなたのようにはならない」

王子は無表情だった。

(気をつけるがよい・・・)

王は心の中で呟いた。だが口から出た言葉は・・・・

「そうか・・・・」

それだけだった。他になにか言いたかったのか、口だけが開いている。

 安堵したようにもみえる表情で、王は倒れた。



 静止した広間の中でただ大時計だけが時を刻んでいた・・・・・








 意味なし、落ちなし、何が書きたかったのか自分でも分からない。
学校の文芸部に頼まれて何となしに書いた駄文です。

 Upできた内容でもないんですが、どうぞお納めください。


BY 左衛門佐