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WRITTEN BY R指定田中一郎
眠らない街はどこにでもある。そんな街の夜でなければ成り立たない仕事もある。 路地裏の更に奥。狭い袋小路でマットが敷いてある。その横には紅いラバーマス クを被った裸の女を連れた線の細い若い男が、夜の暗がりだというのにサングラス をしたまま一人の中年男に話しかけている。 中年男は値踏みするような目で女を睨め回している。 白い肌。 しなやかな手足。 細い腰。 張りのある大きな胸。 完全な剃毛を施してクレバスも露わ。 マスクの窪からのぞくもの悲しげな青い眼。 それら全てが背筋にゾクリと来るような欲情を誘う。 若い男の方も品定めをさせるつもりでそれ許し、やや間をおいてから話し始めた。 「この娘の名前はヒカリ。まだ十八歳の女子高校生です。彼女の身体を自由にしてみたくないないですか? この暗がりで限られた時間で構わないなら安いと思いますよ。ええ、このマットの上って事です。 オッケーですか?だったら時間は40分で、料金は前払いです。 時間が短い分、安いでしょ? この娘、傷付きやすいデリケートな娘だからは避妊具つけてくれたらもう少し安 くしてもいいですよ。え、着けない?じゃあ、通常通りに………はい、確かに。 それから、別料金を払ってもらえれば小道具も用意してますけど。 もちろん縄や浣腸とかもですよ。 大抵のことなら大丈夫だけど、傷が残るようなことだけはやめて下さい。この娘だって身体が資本なんですから。 あと、この娘のマスクを取るのもNGですから。 口でも楽しみたいって………口にホールが付いてますから、フタしておかないと 涎が垂れちゃうんですよ。使うときはフタを外してもらえれば大丈夫です。 唇の感触?それは勘弁して下さい。 じゃあ僕のストップウォッチで時間を計りますから、40分後にまた来ます。延 長したくなったらそのときにお話しましょう。それじゃ今からです。楽しんで下さ い。」 若い男が路地から出るように立ち去ると、中年男は襲いかかるように裸の女を組み敷いた。 「………今日はこれで四人目、と。これでノルマは大丈夫だね」 溜め息混じりに呟き、若い男は袋小路入り口のすぐ脇にある廃屋ビルの階段を上 り始める。廃屋なだけにドアもなく、屋内に入って、中の階段を使って降りていけ ば、マットが敷いてあるところの真横に出られるのだ。顔をのぞかせる程度に出し ておけば、こちらの方が少し高い位置にあるから見張っていることを気付かれるこ とも滅多にない。 「いきなり突っ込んで、出したらすぐさま口か………おじさん、溜まってたみたいだねぇ」 サングラスを脱ぎ、商品としている少女が客に荒々しく扱われているところを冷 静に眺め続ける。この商売を始めた頃はその光景を見るのも悲鳴のような彼女の喘 ぎを聞くのも嫌だったが、三年という時を重ねていく内に、少女が他人に抱かれて いる光景を眺めるという行為に馴れさせられてしまった。 「三年ね………」 眺めている客と少女の狂態の体位が変わる。客は女の尻を抱えて後ろから突き込 む体勢になる。不必要に大きい少女の乳房が揺れて、揺れるたびに黒ずんだ乳首が 軌跡を描く。 「一日平均4人として、月・水・金・土の週4回。一年が52週でその三倍だから………」 ふと、若い男の脳裏にそんな計算がよぎり続けた。何千回もしゃぶられて黒くなっ た乳首に、3000を越える男達に、少なくとも一人あたり二回は使われた花弁。 実際にはそれ以上の精を受け止めているだろう。思い出して見れば、使い込まれて 形が変わってしまい、黒くしわがれていた。 避妊をしないことも売り文句の一つなので、父親のしれない子供を堕胎したこと など二度や三度ではない。 その上で、こんな商売のしがらみのために無償で抱かせて、最後には自分の義務 で抱く。 そういえば口ばかり専門にしている客や、アナルばかり楽しむ変わり種の客もい る。彼女はどれだけの量のスペルマを口にしているのだろう。街角の娼婦に気を配っ てやれるほど裕福な時代じゃない。男達は自分の欲求さえ満たせれば構わないから、 金を払った分以上の無茶なことをする。彼女の口や直腸に小便をすることを好む輩 もいた。あるいは見知らぬ男の大便まで食べさせられたこともあり、人としての尊 厳など、とっくに踏みにじられている。 それでも金の払いが良ければ文句は言えない。僕たちが他に食べていくためには 手段がないのだから。 瞬間的に過去に捕らわれたことに気付いて顔を上げると、客である中年男が彼女 のマスクに手をかけていた。 時々約束を守らない客がいる。 彼女もマスクに手をかけられていることに気付いて悲鳴を上げる。 マスクには三つの鍵がかけてある。そう簡単には外れはしない。 ポケットのナイフに手を伸ばして立ち上がる。 彼女が喘ぐ姿を見ているのも、こういう手合いから彼女を守るため。 窓を飛び越えれば、すぐに中年男の背後だ。 「おじさん、それはNGだって言ったじゃないか」 喉元にナイフを当て、押し殺した声で呟く。振り向きざまに抵抗されても、動脈 を掻き切ることは出来る。 「何度やっても人を殺すのは好きになれないんだ。いつの間にか得意になったみ たいだけど」 初めて人を殺したのは十四歳の時。僕のことを好きだと言ってくれた友達だった。 友達を殺すことが出来た僕だ。行きずりの中年を殺すこと戸惑いはない。 僕には殺意がある。それだけは伝わったらしい。 青ざめた中年は彼女から手を離し、自らの肉棒を彼女から引き抜いた。そして逃げるように去っていく。 僕は何事もなかったようにそれを見送り、彼女の肩を抱き寄せる。 「もう今日はお終いにしようか?」 ナイフをしまい、彼女のラバーマスクにかけた鍵を外すキーを取り出す。 マスクを取ると、のぼせたように紅潮した彼女の顔と、金色がかった長く紅い髪 が夜風に揺れる。彼女も待ち侘びていたように瞳を濡らす。 「今日もお疲れ様、アスカ」 客を取らせるときの名----それは彼女の親友の名を借りている。 彼女の肩に、ひとまずコートを掛けてやる。 「今日の男共、全員が膣内で出しやがった………またニンシンしちゃうよぉ」 最初の内は語気が強く、だが次第にしゃくり上げるようになりながら、訴えるよ うに言う。 「いつもシンジの子かもしれないのに、堕ろすなんて………」 「子供ならいつでも産めるよ。でも、今日を生きていくお金が必要なんだって、解ってよ、アスカ」 その金で生活をしている。 その金で二人そろって高校に行っている。多分この金で、大学にも行くだろう。 だから、客を取るときは顔を見せられない。些細なことからばれてしまったら学校にいられなくなる。 「でもシンジぃ」 慰めて欲しい彼女。 慰めなければいけない僕。 だから家に帰れば彼女を抱く。 他の男に汚されきった身体を。 「帰ろう、それで休もうか」 あれから三年。 荒廃した世界に何も残されていない僕たち。 誰も保障してくれなかった僕たち。 売春を言い出したのはアスカ。こうしなければ生きていかれなかったから。 生活は彼女が支えてくれる。だから僕が彼女を支える。 でも僕は、この先、男共の掃き溜めになってしまったアスカと、いつまで一緒にいなければならないのだろう。 End |