【心の糧】


WRITTEN BY R指定田中一郎

 中途半端なサード・インパクト。
 人は何もかもをなくしてしまった。生きているだけでも幸運というしかない世界。 力のない者の生き残れない世界で、私もどういう訳か生きながらえていた。

「そろそろこの仕事から身を引かれてはいかがですか?」

 かつて部下だった彼。表向きは安宿のバーで弾き語り、実体は安宿を売春宿に仕 立て上げて全てを仕切っている。今の私は彼の安宿を利用する一娼婦でしかない。

「………冗談でしょ?」

「冗談じゃありませんよ、赤木博士………って、もう博士号は関係ありませんでしたね。真面目な口調になるとどうしても昔の癖がねえ、リツコさん」

 ククッと笑いを籠もらせて、相変わらず鬱陶しいだけの長髪をかきあげながら続けた。

「あなたが今月に入って取れた客はたったの3人だ。昔のよしみで宿代を半分しか もらってないのに、これじゃ赤字もいいところですよ」

 悔しいけど彼の言うことは正しかった。今月ももう終わろうと言うのに、私が取 れた客はたったの3人。宿を使わずに路地裏の暗がりで済ませた客を入れても7人。 こんな程度なら、売れっ子なら一日や二日で取れる数字。

「この道に入ってもう4年になりますよね?いつまでも若くないんだし、潮時じゃ ないんですか」

 椅子に寄りかかっていた彼はジロリと私を見上げた。

「他にも代わりの娘はいますしねえ」

 言いながら私のキャミソールを脱ぐことも付け加える。客を取るときはいつもこれ一枚の格好。

「辞めて………どうしろっていうの?」

 宿代を半分しか払わない代わりに、彼に抱かれることは少なくない。彼に抱かれる回数と払わないですむ宿代を比べればずっと安上がりだから。

「あなたの身体もずいぶん変わりましたよね」

 脱がせるだけ脱がせておきながら、彼は私の身体に触れようとはしない。代わりにしげしげと眺めるだけ。
言われるまでもなく、三十路も半ばにさしかかった私の 身体は売り物として衰えている。垂れ気味の乳房、真っ黒な乳首、艶やかさを失い かけた肌。これだけで若い娘に比べて見劣りするというもの。
それを語るように、彼の目付きは私を廃棄物同然に見ているように見えた。

「な、何でもするわ。辞めたら生きていかれないのよ」

 彼の視線を振り払うように、私は彼の股間に顔を埋めた。前歯でジッパーを下ろ して、舌使いだけでチンポを誘い出す。喉につかえるくらいに飲み込んで吸い上げ ると、急激に大きくなってくる。

「これ以上路地裏で粘っても直接付く客が増えることはないでしょう。だからどう です、間接的な客を取ってみては?」

 チンポは反応しているのに、言葉だけはあくまでも冷淡に彼は続けた。

「間接的な客?」

「ええ、ビデオのモデルとしてですけどね」

 糧を得るための私に拒否の選択肢はない。上手くすれば、それの効果でまた客が 付くかもしれない。

「非合法な物ですからね、ギャラがいいんですよ。どうです?」

「………やるわ」

「そうですか。正直なことを言うとあなたの返事待ちだったんですよ、向こうの部 屋で撮影の準備ができてますから」

 そこまで言うと、私の口内に無感情な射精を済ませてさっさとチンポをしまい込 んだ。本当に、性欲を満たしたという満足感とは縁遠い素っ気なさだった。


 使い慣れた宿の一室。壁には収録機材や編集機材が山積みされている。しかし見た目がどう変わっても防音性に乏しいから、隣の部屋の喘ぎ声も聞こえてくるのは相変わらず。

「そこに四つん這いになってください。直に相手が来ますよ」

 彼は「相手の顔はつながってから教えますよ」と私に目隠しをかけて、更に「す ぐに出来るようにしておきましょうか」とアソコとアナルの両方にバイブレーター をつきたてた。

「ぅふうっ!」

 最強の出力でスイッチを入れられ、アソコを商売道具として使い続けている私は 敏感に反応してしまう。私は思わず喘いで床に伏せ混んだ。

「もう撮り始めてますからね。上半身はいいですけど、サービスのつもりで尻は上 げてくださいよ」

 彼の手が私の下半身を無理矢理立たせる。床に胸をこすりつけながら震える膝立 ちで挿入を待つ情けない格好。

「いい格好ですねぇ………こんな姿を見たら、あなたの下で働いていたとは思えま せんよ」

 笑い声を漏らしながら、彼は私を動けないように固定していく。
ゴトンゴトンと相当な重量のある物が床に置かれて、たぶん片端がそれに結ばれたロープに私の手 足に結ばれている。

「さて。お待ちかね、お相手の登場です」

 建て付けの悪いドアが軋みをたてて開けられた。チャリチャリと金属質な音が聞 こえる。それと、不穏な呻き声も。

「ふたを取りましょうか」

 彼は私の股間からバイブを引き抜いた。ほんの数分でも、床にシミを作るくらい に私のアソコは潤っていた。

「じゃ、いきますよ」

 彼の声と同時に違和感のある挿入がされた。
 背中に生暖かい粘液がこぼれ、挿入と同時に触れた肌ですぐに解った。人間が相 手じゃない。

「目隠しを取って!」

「あれ、もうネタばらしでいいんですか?」

 彼がいたずらっぽく言う余裕を浮かべているけど、つながっている私には一秒だっ て気が気じゃない。目隠しを取られると部屋の灯りがまぶしさに目がくらむ。それ を放ってでも相手を確かめたかった。

「ひっ………い、犬っ!?」

 私の声は悲鳴のそれだった。

「どうです?犬にしては立派な持ち物でしょう?」

「い、嫌っ、やめて!カメラを止めて!」

固定されている私は立ち上がれない。身をよじるのがせいぜいで、それでも犬のチ ンポからに逃れることは出来なかった。

「お願いよ、青葉くん!」

 私は泣きながら訴えた。けれど彼の目に私は廃品としか映っていない。ゴミの再 利用くらいの感覚でしかない彼に、私の願いは届かない。

「いいじゃないですか赤木博士、こんな野良犬だってサード・インパクトの被害者 なんですよ?個体数が減ったから繁殖出来なんです。いずれ姿を消すでしょうけど、 せめて本能的な部分を満たしてやるのは悪いことじゃないですよね」

 彼の言葉を聞きながら、膣の入り口あたりで犬のペニスがことさら大きくなるの を感じた。犬は確実な射精をするために、雌の膣から抜けないようにペニスの根が ふくらむ。なら今この犬は射精寸前?

「ああぁっ!」

 私は大量の精液が膣に打ち出されるのを知った。犬の射精は小一時間続くことくらい知っている。
あきらめにも似た脱力感に見舞われて嗚咽する。ただひたすら、 犬の射精が終わるのを待つだけだった。

「こういう映像なら、マニアは幾らでも金を出しますからね。こんなこと、客も付 かなくなったあなた向きの役回りでしょう」

 犬の射精が終わるまで沈黙していた彼は、犬が離れてから口を開いた。
 この映像が市場に出回ればかなりの売り上げが見込めるという。だからそれなり に出演料が還元できるらしい。
でも私の顔も名前も売れるだろう。そうすれば犬と セックスした、いいえ、交尾した女を娼婦として金を払う客など完全にいなくなる。

「心配には及びませんよ。あなたの名前でシリーズ化しますから、当分は安泰のはずですよ」

 今後は馬、猿、豚との交尾の撮影を予定してますよと彼は笑う。ビデオの売り上げがよければ実演ショーもやると。
娼婦としての自分に、獣姦ビデオの出演によって自分で終止符を打ってしまった以上、私は彼の提案を受け入れるしかない。

「………好きにして」

 私が呟くと、彼は今日初めて、私を商品価値あるものとして目を向けた。

「少し休憩を入れたら2本目の撮影をしますよ」

 彼は「『墜ちた女・赤木リツコシリーズ』ってパッケージにもでかく入れておき ますよ」と言って、次の動物をつれてくるために部屋を出ていった。



 今日も撮影が終わった。私の出演シリーズは、今回の撮りで十二作目になる。裏 市場の商品なのに予想以上に好評で、シリーズ続編を待つ声が多いらしい。
ロバと猿と蛇が一回ずつ、馬が二回に豚が三回、犬は四回。たぶん、近く実演ショーのオ ファーもくるだろう。

「ただいま………」

 灯りのついていない部屋に向かって呟く。人がいても、答えてくれる声はない。

「ふふ、聞いてくれる?」

 私がそう言うと、嫌な光だけが残る目が私に向けられる。もう動くことも喋るこ とも出来ない、意図的に全身機能を破壊されて寝たきりの元ネルフ総司令。
あとは野垂れ死にを待つだけの身であった彼を引き取ることは簡単だった。

「今日は豚が相手だったわ。しかも三匹も。いっぱい射精されたし、サービスカッ トを撮るからってしゃぶって飲んだわ。だから胃も膣も豚のスペルマでいっぱいよ」

 脱いだパンティには溢れ出した豚の精液が大きなしみを作っている。

「あら、もったいないわね」

 私は動けない元総司令の顔面に急いでまたがる。すると時間をおかずに彼の顔面 に豚のスペルマが注がれる。

「どう?人のスペルマとはひと味違うでしょ?」

 普通の娼婦だった頃は名前も知らない男達の精液を、今は動物の精液を垂れ流すことが私の唯一の楽しみ。
この屈辱を与え続けることが彼への復讐。顔をしかめる ことすら出来ないこの男が眼で訴えるのを見るのが楽しくてたまらない。私の哀れ みのみで生かされているこの男に、それ以上の屈辱を与え続けられるなら、私はど んな汚辱にまみれることだって耐えられる。



                      <終>



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