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2008/09/15(月) 18:18:30

HOLMESIAN CHRONICLE

writen by RYU


 春先に起こった事件までは、エラルド=コイルといえば、この国では名実共に一番の探偵であった。
あのビル爆破事件に彼が関わってさえ来なければ…。

 唐突に奇妙な捜査会議は始まった。
『非常に面白い事件です。この犯人からは、一般的なテロに有りがちなナショナリズムを一切感じません』
 特有の雑音が、声の主と発言を謎めかせた。
ざわめく捜査員と向き合っているのは小型無線機。
それを持ち込んだ男は、ワタリと名乗った。
英国政府の口利きなのだとは、私は後からエージェントに知らされた。
 事件は、人がひしめく日中の高層ビルに火薬を積んだ車が突っ込み、ビルは倒壊、中に居た多くの人間を犠牲にした痛ましいものだった。
この凄惨な事件を、面白いと片付けてしまえる感性には、些か感心しない。
『単刀直入に申し上げますと、私は失礼ながら犯人を同国の方と確信しています』
 更に捜査員のざわめきが増す。
私も、その新しい推論には興味があった。
「しかし、これ程の政治的な犯行を国民が行うとは…」
 指揮を執る長官は、国内に潜む諸外国のテロリストの犯行であるという持論に沿わない見解を、そのまま飲む事が出来なかったらしい。
『では、お聞きしますが?長官』
 無線機の向こうの声は、少し苛立った様だった。
『犯行声明が今だ無い状況を如何お考えですか?また、これだけの事件起こしながら、諸国の活動家に大きく動いた形跡は全く無い…』
 その位なら、捜査がお済みでは無いですか?かなり皮肉った問い掛けに、長官は返答出来ず、黙り込んだ。
『まずは倒壊したビルの下から犯行に使われたであろう車両を見つける事が先決です。活動家を当たるのは、その後でも十分でしょう』
 乞われるまま捜す事だけをしていた私は、ただその声に耳を傾けた。
この間に、このLと名乗る人物が、酷く慇懃無礼だという事は判った。

 結局、犯行に使われたレンタカーと防犯カメラ、それに宿泊していたモーテルや目撃証言といった所から、私が見つけ出した犯人は確かに国民であった。
また、被害の甚大さからいえば、犯行理由は実に個人的で幼稚なものであり、全てが、あの捜査会議に突然やってきた異邦人の言った通り。
「素晴らしい推理でした」
 賞賛以外に何があろう。
「今回の事件、貴方の助言がなければ解決する事は出来なかったでしょう」
 他国に流出した資料のみから、犯人像を的確に割り出してきた、この人物。
事件の捜査資料をエージェントの一人から受け取ると、その時の資料だけを抜き取り、後は応接用のローディスクへと投げ出した。
「L。それにエージェント・ワタリ」
 非常に興味ある人物。
属国、所在不明の探偵が他にも居るとは聞いてたが、まさか直接関わるとは思ってなかった。
「是非、一度お会いして、捜査方法についてご教授頂きたいものです」
 念のいった事で、報酬は半分は直接エージェントが長官から現金で受け取り、半分は某国の口座へと振り込む算段なのだとか。
現金で渡す報酬に、私は仕掛けをお願いした。
レコーダーに一言録音して一緒に渡したのだ。
発信機等は付けてもすぐにバレるだろうし、そんな事では面白くない。
 返信は、思ったよりもすぐに届いた。
『建前は結構です』
 最初の一言に苦笑い。
多少なりと、どんな相手かプロファイルしようと思ってましたが、やっぱり読まれてたか。
『でも、無事、事件も解決しましたし…』
 次のLの申し出に私の方が驚いた。
『ゲームでもしませんか?』
「ゲーム?」
 突然の事にレコーダーに思わず答えてしまい、苦笑いを続けた。
『貴方も私も互いの事は知らない。この状態から互いを見つける競争です』
「なるほど」
 私に人探しを挑戦したいという訳ですか…彼は、探偵としての私の事を知っているのか?
『エラルド=コイルは人捜しにかけては飛び抜けてると聞き及びます。是非、勝負を』
 面白い。
「このゲーム、受けて立とう」
 属国が無いとはいえ、英国政府を通している事。
レコーダーに吹き込まれている言葉から解る英国訛り。
それなりに情報は揃っている。
「私の名に賭けて、L、貴方を見つけ出します」
 是非にも、この有能な探偵の正体は、自分自身の手で白日の元に引き摺り出してやる。
笑いを堪えてレコーダーにマシンボイスで吹き込み、何時もの様に私は自信に満ちた笑みを浮かべて、用意された珈琲を飲み干した。

C改訂/20080915 誤字修正
B改訂/20080903 誤字修正
A改訂/20080821 誤字修正
ST/20080804
個人的には色々拘りました(笑)ちょいと捻くれた短編です。
最後にネタバレしますが、その前にネタに気付かれた方、募集中。

※この小説はフィクションであり、実際の事件、団体及び個人とは一切関係ありませんので、ご承知おき下さい。念の為。



ストーリーリスト 現在 全8話


[1]倫敦

[2]接触

[3]情報

[4]捜索

[5]解決

[6]名探偵のクロニクル

[7]最後に

[8]名エージェントの後日談


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